話は前後するのだが、この間事務所で仕事をしていると電話が鳴った。デジタルの画面に「非通知」と表示されたので、イヤな予感がした。お盆休み中の店舗に番号非通知でかかってくる電話なんぞロクなもんじゃない。クレームかトラブルか、一瞬無視しようかと思ったが出ることにした。
「もしもし、あのー、わたくし以前そちらで働いていたUと申しますが…」
音声はクリアだが、デジタル特有の途切れ途切れの声がそう言った。
驚いた。3年ほど前に辞めた、僕の元部下からの電話だった。
彼女は新卒の時に、僕が面接をして採用し、やっと一人前になったかなと思った時に突然辞めると言いだしたのだ。これからと言う時だったので、僕は散々慰留したのだが、彼女の決意は強くそのまま退職となった。僕は上司として何が駄目だったのかけっこう悩んだ。
もともと学生時代から海外に行くことが好きで、うちの生協を辞めてからも、インドネシアやオーストラリアにいるようなことを風のたよりに聞いていた。
でも、辞めてから僕には一度も連絡がなかった。それもまた心に棘のように引っかかっていた。彼女が辞める時に、落ち着いたらどんな仕事してるかくらい連絡をくれと言ったのだが…
そして3年が経っての突然の電話。彼女はなんとカナダにいた。日本人相手に公的な書類の発行をサポートする会社で働いているそうだ。まあ、なんにせよ元気そうだし、ほっとした。
電話の後、メールも送ってきてくれたが、突然やめたことに関して、僕のせいではなく、海外でどうしても働きたかったからだったと書いてあった。
そうか、とにかく元気でがんばれ、そう返信メールを書きながら、夢を追いかけ世界に飛び出した彼女がうらやましく思えた。